あゆみSTORY

最後の区の直営施設だった~あゆみの家~

あゆみの家のあり方をめぐって「あゆみの家のあり方検討会」が開かれたことが過去に2度あります。1回目は区の直営時代で、2回目は直営から民営になって3年目の時期です。ともに1年をかけてあゆみの家のあり方や将来像について保護者も交えて検討されました。最初に開かれたのは平成15年です。2年後に出された報告書を見ると、3つのテーマで検討されたことがわかります。

  1. 幼児部門の分離について →その後、「子ども発達センター」として現在地から移転して実現。それにともないあゆみの家は成人のみの通所施設になりました。
  2. 施設の委託化について →1回目の検討会から9年後の平成24年4月から「指定管理者制度」が導入され、区に変わり新障協が施設運営を担うことになりました。
  3. 法定施設への転換について →これも法律が「障害者自立支援法」から「障害者総合支援法」に変わる過程で、国の給付費を施設の運営財源にすることによって実現しました。

あゆみの家の保護者は、民営化をどう受け止めていたのか?

あり方検討会での保護者代表の発言から見ると、あゆみの家の民営化については保護者の不安が大きく、反対していたことがわかります。

  • いきなり職員が総入れ替えになることがとても不安。
  • 民営化と言えば心配なことばかり。例えば、保育園が民営になった時には職員が全員代わって、子供たちが1か月ほど泣いていたと聞いた。
  • 民営になったからと言って職員の入れ替えがなくなるわけではなくて、退職が激しくて運営が安定しないこともあるそうだ。

平成16年の夏には区長あてに保護者会が、

  1. 通所者の重度重複化に対応して職員を増員して下さい。
  2. 行事ができるホールや食堂を増設して下さい。
  3. 入浴サービスができる設備と人員体制の増員をして下さい。
  4. 民営化はサービスの著しい低下の不安があるので、引き続き区の直営事業でお願いします。

と4つの要望を出しました。

区も民営化がいいことづくめではないことは承知していて、検討会の報告書には次のように民営化のメリットとデメリットの記載がありました。

民営化の時期は、他の区立の障害者施設は平成19年度までに移行すると発表されていましたが、あゆみの家は、先に移行した施設の実績や効果を見極めてからということになりました。指定管理者制度は区の行財政改革計画の一環で行われていて、障害者施設以外の施設は平成18年度までに移行するのが区の方針でした。また、障害者施設は慎重に進めるものの聖域にはしないことも明言されました。こうして平成17年に高田馬場福祉作業所、18年に生活実習所と障害者福祉センター、19年には新宿福祉作業所を民営化して、直営施設はあゆみの家のみになりました。

それから3年後、22年に「あゆみの家も24年度に指定管理者制度に移行する」と発表されました。平成22年2月には新宿区障害者団体連絡協議会が「あゆみの家の指定管理者の業者選定に関する嘆願書」を加盟20団体の連名で新障協あてに出しました。そこでは制度の導入に反対しないが新障協が指定管理の事業者として名乗りを上げてほしいと要望が書かれていました。

それは何故か?嘆願書にはその理由が次のように書かれていました。

「あゆみの家のような重度重複の障害者が通所する施設が経費節減や効率性が期待される指定管理者制度に移行することで、安全性やサービスの質の低下を招くのではないかと当協議会は危惧しています。…(中略)…貴法人は障害者福祉センターやあゆみの家の短期入所事業を通じて、あゆみの家の通所者の障害状況や生活歴、地域の社会資源等について、区内で事業展開する上で必要な人的ネットワークや情報を蓄積してきました。それに加え、新宿区はじめ福祉、医療分野の関係機関とも協力関係を持っている地域密着型の社会福祉法人です。また、貴法人は、当協議会が設立母体となっている関係で親亡き後の重度障害者の地域自立の願いを区の施策に反映させる諸事業を実現してきました。従って、あゆみの家の利用者の思いに沿った丁寧な支援を実現できるのは貴法人をおいて他にないと言っても過言ではありません。」

業者選定は、①公募説明会と現地見学会 →②申請書の提出 →③書類審査 →④公開プレゼン →⑤指定業者の内示 →⑥区議会の承認を経て正式決定と進みます。公募説明会には5つの法人が参加しましたが、申請書を出したのは新障協のみでした。新障協が申請を取り下げると選定が不調となって区直営が継続かもしれないという憶測も出ましたが、区は募集エリアを全国に広げて再公募をして導入するという方針があったので直営継続の選択肢は初めから無かったようです。

指定管理者制度の導入で何が変わったのか?

それでは、新障協は指定管理者に名乗りを上げた際にどんな提案をしたのか?指定申請にあたり事業計画書や新規事業提案書を出しているので、それを見ながら直営時代と民営化後で何が変わったのか、保護者の不安や懸念は払拭されたのかを見ていくことにしましょう。

当時、新障協は、新宿区の要請(期待)と保護者会が民営化反対していることは知っていたので、双方の期待や疑問に答えることも念頭に計画書は作成されました。まずは保護者会の要望では…

  1. 通所者の重度重複化に対応して職員を増員して下さい。 ➡運営費全体に占める人件費の割合は、約70%ですが、経費節減効果を出すとなると人員減員や給与減額を考える必要がありましたが、その提案はしませんでした。そこで利用者と職員の配置比率は直営時代と同じにして、給与も法人の給与表を適用しました。幸か不幸か、給与水準が法人と区職員では差があったので経費削減が実現しました。他に運営係は区の時代より人員を半減させましたが、移行後に運営係には大変な苦労をかけました。
  2. 入浴サービスができる設備と人員体制の整備をして下さい。 ➡民営化の直前に設備改修工事が行われて、直営時代は無理と言われていた入浴サービスが実現しました。
  3. 民営化はサービスの著しい低下の不安があるので、引き続き区の直営事業で。 ➡区と相談して、他の区立施設の倍近い移行準備期間を設けて法人の職員が現場に入って丁寧な引継ぎを行いました。また、入浴サービス以外にも直営時代に実現しなかった運営上の工夫や改善の提案をしました。

例えば…➊サービス提供時間の延長:日々の通所事業では直営時代の午後3時の降所を3時30分と30分延長しました。また、直営時代にあった夏休みや春休みを廃止して通所日数を増やしました。 ➋土曜ケアサポート:これも直営時代にはできなかったことです。働く保護者が増えていることや保護者の高齢化によって土曜日に在宅で過ごすことが難しい方への日中の居場所を提供する事業です。それなら日中ショートを使えば…となりますが、事業所も少なく予約を取るのが大変ということで、そのニーズに応える事業でした。本業の生活介護の通所日数の増加でなく、別事業でした。さらに日中ショートになるとあゆみの家以外の方でニーズのある人達も利用できるため、重度の知的障害や行動障害を伴う人達の利用が見込まれました。新宿区には先例がないので他区市の先進事例に学ぼうとしましたが、先例がない事業でした。そこで上半期はニーズ調査やプログラムの開発などの準備で、実施は9月以後という提案をしました。 ➌短期入所事業の外部委託をやめてあゆみの家の常勤職員が担当すること、にしました。利用者の多くがあゆみの家の通所者で重度化が進み、利用対象外になっていた医療的ケアの方が将来的には利用対象にすることへの備えとして取った対応でした。

第1期の指定管理の契約は5年間になっていたので、他にも様々な新規事業を提案しました。

(凡例) 新規:新たな事業提案  拡充:既存のプログラムの改善や拡充

第1期の指定期間で実現できたものもあれば、その後お蔵入りしてしまったものもあります。中には職員を増やさないと難しい事業もありました。数字の上では直営時代と同じ比率で職員を置いたとはいえ、時間延長や開所日の増加、短期入所の追加、入浴業務の負担などを考えると、職員の人件費比率や環境的には増員配置をすべきだったと後悔しました。それでも障害者福祉課の担当職員は事情を理解して、2年目以降には職員増員の努力をしていただきました。

当時提案してお蔵入りした事業を取り出して今風に加工すれば令和の新規事業になるものもあるかもしれません。これからもあゆみの家は利用者に寄り添い、職員、ご家族、区(行政)が手を携えて「重度重複障害者にとって最後の砦!あゆみの家」を守り、盛り上げていくでしょう。

(矢沢)

民営になった年の写真から

あゆみ祭の子供動物園

所長と保護者会の三役の皆さん

 

 

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